主なポイント:
- スイスで予定されていた米イランの実務者協議が金曜日に中止、バンス副大統領の出発も延期
- ゴールドマン・サックスは石油市場がワシントンとテヘランの信頼不足を価格に織り込んでいないと警告
- FRB議長ウォーシュがフォワードガイダンスを撤廃、政策不確実性が高まりCTAの下振れリスクが顕在化
主なポイント:

米国とイランの初回実務者協議は開始前に頓挫し、今週ベルサイユで署名された60日間の枠組みは不安定な基盤に置かれている。
スイスでの米イラン実務者協議の中止と、JD・バンス副大統領の出発延期により、石油市場に新たな不確実性が生じ、ゴールドマン・サックスは地政学リスクプレミアムが依然として過小評価されていると警告した。
「核心的な問題は信頼の欠如である。もしイランが輸出を完全に回復し石油リスクプレミアムを排除すれば、自らの主要な交渉カードを手放すことになる」と、ゴールドマン・サックスのワン・デルタ・トレーディング・デスク責任者リッチ・プリボロツキー氏は指摘した。 「市場は物理的なバレルを価格に織り込んでいるが、この信頼不足をまだ割り引いていない。」
スイス外務省は金曜日、ビュルゲンシュトック・リゾートで予定されていた米国、イラン、カタール、パキスタン間の交渉が延期されたと確認した。バンス副大統領は木曜夜に出発を中止し、ホワイトハウスは未解決のロジスティクス問題を理由に挙げた。イラン外務省は、爆撃を受けた核施設へのIAEA査察官の今後のアクセスは協議の結果に依存すると述べ、既にテヘランが査察官を招請したとするスティーブ・ウィトコフ米特使の議会での主張と矛盾した。イスラエルとヒズボラの間で係争中の停戦が現地時間金曜午後4時に発効したが、双方が相手側の違反を非難している。
水曜日にベルサイユで署名された覚書(MOU)に基づく60日間の猶予は既に進行中であり、これには制裁緩和、3000億ドルの復興基金、そして世界の石油取引の21%を扱うホルムズ海峡の再開が含まれている。協議が停滞したままとなれば、市場が織り込んできた石油供給増加は実現しない可能性があり、ゴールドマンが指摘したCTAの下振れ非対称性は、モメンタムが反転した場合に急速な株式売却を引き起こしかねない。
石油リスクプレミアムと信頼不足
データ・インテリジェンス企業のKplerは木曜日に25件の確認済みホルムズ海峡通過を観測し、「日々の海上活動の顕著な増加」と評した。ドナルド・トランプ大統領は海峡を通る交通量が急増し、「約700隻」の船舶が流出したと述べた。しかし、根底にある政治力学は依然として脆弱である。イランは、再び協議に臨む前に、米国がMOUの公約(封鎖解除を含む)を履行するよう要求している。米国は水曜日にCENTCOMを通じてイラン港への封鎖を解除したが、イラン外務省は、損傷した核施設での査察は交渉結果に基づいてのみ進められると述べている。
プリボロツキー氏の分析は構造的な緊張を浮き彫りにしている。すなわち、イランには完全な遵守を遅らせるインセンティブが存在するという点だ。「もしイランが輸出を完全に回復し石油リスクプレミアムを排除すれば、自らの主要な交渉カードを手放すことになる」と同氏は記している。同様の力学が最後に作用したのは2015年のJCPOA交渉時であり、イランはウラン濃縮能力をレバレッジとして維持しながら、18カ月かけて段階的に制裁緩和を実施した。
FRBの不確実性が市場の脆弱性を増幅
地政学的な混乱は、米国の金利政策における構造的な変化と時を同じくしている。新任のFRB議長ケビン・ウォーシュ氏は今週、初のFOMC会合を開催し、委員会は声明文からフォワードガイダンスを削除した。これは金利見通しに一段の不確実性をもたらす動きである。フェデラル・ファンド金利は2023年7月以来変わらず5.25%から5.5%に据え置かれている。声明変更前、OIS市場では次回会合での据え置き確率を62%織り込んでいたが、ガイダンス撤廃により可能な結果の範囲は拡大した。
ゴールドマンのプリボロツキー氏は、低水準から中立のセンチメント指標(中立圏のブル・ベア指標、約30付近のCNN Fear/Greed指数)と、高水準の個人投資家レバレッジの組み合わせが、脆弱なテクニカルな状況を生み出していると指摘した。「CTAの下振れ非対称性が形成されている。モメンタムが反転すれば、下振れは急速に拡大する可能性がある」と同氏は述べた。
AI相場が広範な市場との乖離を隠蔽
AIテーマは今週も株式市場のアウトパフォーマンスを牽引し、ゴールドマンのAI半導体指数(GSCBSMHX)、ストレージ指数(GSTMTMEM)、ロボティクス指数(GSXUROBO)は全て新高値を更新した。インテルは、アップルの製造受注を獲得する可能性があるとの未確認報道を受けて10%急騰した。中国のAIラボである智譜(Zhipu)によるオープンソースモデルGLM-5.2のリリースは、中国からの競争圧力が米国のハイパースケーラーの設備投資コミットメントを加速させており、減速させていないという見方を強めた。
しかし、この上昇相場は狭い範囲に限られている。AI構成銘柄を除くS&P500(SPXXAI)は木曜日に56ベーシスポイント下落し、ラッセル2000はSOFR先物のプライシングから乖離している。これは小型株がメガキャップ・テクノロジーとは異なるマクロ環境に直面していることを示唆する。銅とナスダックの歴史的な相関関係も乖離し始めており、AI取引がより広範な経済からますます乖離していることを示唆している。
今後の展望
今後60日間で、ベルサイユ枠組みが存続するかどうかが決まる。イランが交渉のテーブルに戻れば、石油供給の正常化がブレント価格を押し下げ、インフレ圧力を緩和する可能性がある。協議が凍結されたままであれば、リスクプレミアムは原油価格に組み込まれたままとなり、株式市場はFRBの新たな政策の曖昧さによって増幅されたCTA主導の調整リスクに直面する。イスラエルとヒズボラの停戦(既に係争中)は、より広範な地域枠組みが存続できるかどうかの最初の試金石となる。
本記事は情報提供のみを目的としており、投資助言を構成するものではありません。